(そしてぼくはきみを抱いて) 野村喜和夫 そしてぼくはきみを抱いて ひと夏が締めくくられた 恵みの夜の郊外から また始まる都市の日常へと 車で帰路を急いでいたら 丘の向こうで 花火の打ち上がるのがみえた もしきみが助手席にいたら 歓声をあげただろう ぼくはハンドルをにぎっていたので 愛する大地 愛する大地 そこから届けられる火の花束を 視野の片隅に認めていただけ でも十分だった 今年の花火の向こうに 去年の花火がみえ そのまた向こうに おととしの花火がみえていた のにちがいなく 空の奥で いくつもの夏の終わりが連なって 夜の喉のようにすぼまり それが永遠 --詩集『ニューインスピレーション』(書肆山田、2003)より |